
引き出しの奥から現れた一枚の切符に、時の止まった線路の気配が宿っている。東武熊谷線廃止記念乗車券。1983年6月1日、その短い路線は静かに幕を閉じた。
営業係数は500を超え、年間2億円余りの赤字を抱えていたという数字だけを見れば、その運命はあらかじめ決まっていたかのようにも思える。だが、この路線は東武鉄道に残された最後の非電化の旅客線であり、たったそれだけの理由で特別な存在だった。気動車を維持するための手間や費用は、見えない重みとなって線路に積み重なっていったのだろう。
さらに、妻沼ニュータウンの開発が思うように進まず、街の成長とともに膨らむはずだった人の流れも、どこかで足踏みを続けていた。そうした幾つもの事情が重なり合い、やがて一本の線路は静かに役目を終える。
それでも、この小さな記念切符を手に取ると、かつて確かにそこに列車が走り、人々の暮らしを運んでいた時間が、かすかに蘇ってくるのである。
